Midori讃

c0127019_22262785.jpg
満月の夜。その美しさは写真にうつらない…

特等席でMidoriのバッハを聴く。去年にも増して音色はいっそう研ぎ澄まされ、もはや「Midori個人の表現」など存在しない。Midoriは(20年来のファンとして愛情を込めてこう呼ばせてもらう)いつもお客様とのコミュニケーションを大切にしていると言うが、少なくとも演奏中においては、我ら見物が近づける余地はない。Midoriは作曲家と300年の時を越えて往復書簡のやりとりしている最中で、あるいは音符そのもの(音符の精!)として、Midori自身の意思とは関係なしに飛んだり跳ねたりしているようでもある。そして見物は、ただそれを「目撃」するのみだ。

その宇宙人のようなやりとりを目撃していると、私は無宗教であるけれど、こういう瞬間を「宗教体験」と言うのではないか、などと思う。例えばがんを告知された私であれば、この体験の後にがんが小さくなった、というようなことも起こり得るのではないか。

そんな非科学的なことを思いながらシャコンヌを聴けば、これはもはやMidoriとバッハとの対話ではなく、人と神とのやりとりであるように思われた。人の最期、三途の川の手前に広がる花畑。それまでの人生が走馬灯のように駆け巡り、ことに甘い記憶は色彩鮮やかによみがえる・・・けれど、やっぱりひとは死ぬのだ!と最後にとどめを刺したのは、今晩最初で最後の「Midoriその人」であった。嗚呼、Midori讃。


五嶋みどり デビュー30周年特別プロジェクト
2012年8月2日 @紀尾井ホール

バッハ ソナタ第1番 ト短調
バッハ ソナタ第3番 ハ長調
バッハ パルティータ第2番 ニ短調
[PR]

by kstokyo | 2012-08-02 23:59 | 芝居見物

<< 野毛の夜 THANKS Ichi! >>